北大生を中心に運営してきた食の交流イベント「北大マルシェ」が、2021年から装いも新たに「北大マルシェアワード」として始動。未来を見据えた農業・農村・食の活動に取り組む応募者を募集し、11月13日に最終審査会が行われた。ファイナリストは全9組。それぞれが農業部門、農村部門、食部門いずれかのテーマについて約10分間のプレゼンテーションを行い、学生を含む審査員11名の話し合いにより、最優秀賞は「そらち南さつまいもクラブ」が受賞した。

最優秀賞の「そらち南さつまいもクラブ」さん

最優秀賞の「そらち南さつまいもクラブ」さん

北大マルシェアワード実行委員会は北海道大学大学院農学院・国際食資源学院の修士課程17名で構成されています。実行委員長の須田尚人さん(国際食資源学院)、実行副委員長の本田稜真さん(農学院)、最終審査会の司会を務めた李澍さん(国際食資源学院)に初年度の活動を振り返ってもらいました。

人気企画が原点回帰。知られざる農・食の活動にスポットを

毎年夏に開催される「北大マルシェ」といえば、全道の魅力的な生産者さんが集まる札幌市民の人気企画でした。それが「北大マルシェアワード」に生まれ変わった経緯から聞かせてください

李:北大マルシェは2010年から小林国之先生・三谷朋弘先生が担当されている大学院共通授業科目「食の安全・安心基盤学Ⅳ」の一環として始まった企画です。私たちの先輩の時代から毎年大勢の方々が足を運んでくださる人気イベントに成長したことはとても誇らしく感じていましたが、「もう一度原点に立ち返ってみたい」という小林先生・三谷先生の思いもあって、アワード企画に生まれ変わりました。

従来のようにおいしい農産物や有名な加工品を紹介するばかりでなく、未来を見据えた農・食の活動に取り組む方々にスポットを当てたい。それも生産者だけでなく、農村コミュニティやさまざまな食の課題解決に取り組む幅広い方々を知っていただく場にしたい。それが新生・北大マルシェアワードの原点です。

須田:応募部門は「農業部門」「農村部門」「食部門」の3つを用意しましたが、まずは生まれたばかりのアワードイベントを知ってもらうためにホームページを作成し、各種SNSで情報を発信。実行委員メンバーが知っている農業関係者に個別にメールを送ることで、情報を拡散していきました。

本田:自分たちが特に大切にしたのは、まだあまり知られていなくてもこれからの時代に大切な活動を続けている人たちを“発掘”すること。ほとんどの応募者が中小規模の家族経営だったので応募者ごとに担当学生を決めて、時には学生目線の考えもお伝えしながら審査会当日のプレゼンテーションまでサポートさせていただきました。

ユートピアアグリカルチャー

本田さんが「チーズケーキという嗜好品で未来型農業を追求する姿勢が熱い!」と感動した日高町・ユートピアアグリカルチャーさんのプレゼンタイム。

李:初年度の課題としては部門ごとに応募のばらつきがあったこと。こちらから「応募してみませんか?」と声をかけたところも多く、実行委員で話し合った結果、今回は書類審査に応募してくださった9組全員をファイナリストにお迎えしました。

今思えば、私たちが設けた各部門のコンセプトは、一般的なフードコンテストの基準とは異なるもの。例えば「食部門」でしたら「新発見、新体験を通じて心を動かす食を伝える」というちょっとフワっとした内容なので、応募しづらいと感じさせてしまったところもあったのかもしれません。

そこを理解して、応募してくださった方々に「学生さんと一緒にやれて楽しかった。自分たちの活動に自信を持ちました」と喜んでいただいて、私たちもこの北大マルシェアワードの方向性に自信を持つことができました。

「由栗いも」やスマート農業、フードシェアリングなど多種多様

2021年11月13日に北大マルシェラボで開催された最終審査会の様子は当日オンラインで配信され、アーカイブ動画も公式サイトから見れるようになっています。9組のファイナリストのプレゼンがどれもすばらしくて甲乙つけがたく、審査時間が長引いたとうかがいました。

本田:定量的な審査ではなく、あくまでも審査員の方々の話し合いで選ぶものなので、かなり白熱しました。

かけ足で結果をご紹介しますと、《食部門 以食伝心賞~心を動かす食~》は「チーズワンダー」の可能性を追求するユートピアアグリカルチャー様、《農村部門 地域の元気スターター賞》はラジオ番組「とかちウーマンフロンティア」のDJマドリンこと、株式会社マドリン様、《農業部門 未来を語る農業賞》は現役の北大生チームが「ミジンコウキクサ」の生産に挑むfloat meal(フロートミール)様、そして《最優秀賞》はJA由仁町とJA栗山町の合併後、新ブランド「由栗(ゆっくり)いも」で団結するそらち南さつまいもクラブ様が受賞されました。

マドリンさんは広尾町からzoomで参加。受賞を聞き、「発表するまでに学生さんが本当に熱心に寄り添ってくれた」と感謝を口にした。

お一人ずつ、特に印象に残ったファイナリストさんを教えてください。

李:私はやっぱり自分が担当だったこともあって、津別町で5戸の農家さんが集まって法人を作った木樋桃源ファームさん。彼らの畑は本当に山深い地域にあって、そういう不利な条件を新しい栽培技術やスマート農業の導入で克服しようと頑張っておられます。

特に覚えているのは、男性の構成員さんに取材に行ったとき、「女の人ってすごいよね」というお話をされたこと。「男たちが“天気が悪い”とか“作業が辛い”とかこぼしているときも、女の人たちはいつも朗らかに笑っていて、その笑い声を聞いてるとこっちも元気になる」と聞いて、まるで一つの大家族のよう。新しい技術の力もあるけれど、根本は農業を楽しむ人たちがいるからこそ、ずっと続けていくことができるんだなあと実感しました。

本田:自分も木樋桃源ファームさんが印象に残っています。持続可能な農業の実現を目指しながら、同時にその活動は「どう生きるか」、生き方の問題とも重なっていたように思います。

須田:私はファイナリストの幅の広さを示せたという意味で、北大生チームのfloat meal(フロートミール)さんと、フードロス対策としてサブスク型のフードシェアリングを展開する食部門のプレスフードさん。いろんな方向性、いろんな切り口の方々が一堂に会し、ファイナリストさん同士の交流会もとても盛り上がっていました。

そういう横のつながりも北大マルシェアワードとしては大事にしていきたいし、「これからの当たり前」を作り上げていく新しいビジネスモデルにつながるんじゃないかと期待しています。

受賞者さんたちには賞品や賞金こそありませんが、北大キャンパス内でのイベント販売と合わせて「これからも学生と一緒に新しい企画を考えていきませんか?」とご提案しています。

表彰式

表彰式

農村の子どもたちにかっこいい大人の姿を見せる場に

SDGs17の国際目標の中には「14海洋資源」「15陸上資源」といった一次産業への言及や、「2飢餓」「9イノベーション」「11都市」「17実施手段」など、北大フードアワードの精神と通じるものがいくつもあります。

須田:今回私たちが掲げたテーマは「20年後の当たり前を今、はじめよう」。応募者の皆さんがそれぞれの課題に対して「自分たちがやればもっとよくなる」と信じて活動しているところは、9組全員に感じた共通点でした。

20年後にも持続するために、と考えて自然に出てきた課題に向かって動いている人たちがいる。それを知った皆さんにも、これからの農や食を考えるきっかけにしてもらえたら嬉しいです。
李:持続可能な社会に向けた農業や食の課題は、私たち学生が言うまでもなく、もうあらかた出尽くしていると思うんです。後継者不足や人口減少、食のグローバルフードシステムの中でどうやって生き残っていくか…。
この北大マルシェアワードは、そういった現状に対し新たな課題を発見するというよりは、すでに自分たちが直面する課題に対して行動を起こし、解決に導こうとしている方々を広く知ってもらうことが目的。

それも「課題解決のために!」といった声高な主張ではなく、「自分たちが楽しく農業をしたい!」という心の底からわき出る思いがあるから私たちも感動するし、そのかっこいい姿を他の人にも伝えたくなる。

長沼町の「農家の嫁プロジェクト」の皆さんには、小学生から高校生くらいのお子さんがいらっしゃるんです。「最終審査会にぜひ連れてきてください」とお願いしたら当日大人数で来てくださって、終わった後にお母さんたちの発表どうだったと聞いたら、「すごい面白かった!」と言ってくれました。

あの会場にいたお子さんたちが成人して、たとえ農業の後継者にならなかったとしても、あそこでプレゼンする大人たちを見て農業や農村に前向きなイメージを持ってくれたら、きっと将来は強力なサポーターになってくれるはず。そんな未来の可能性につながる最終審査会だったと思います。

動結成のきっかけを寸劇で紹介した「農家の嫁プロジェクト」。頑張りすぎずに楽しむ姿勢で女性の元気を応援中。

本田:自分はいつも研究室にこもりきりで研究していることが多いので、北大マルシェアワードの活動を通じて現役の農家さんに取材に行ったり、価値観が違う学生同士で話し合う時間を持てたことはとても勉強になりました。
こういう活動が大学院共通授業科目にあるのも、実学を重んじる北大らしさだと思います。「食の安全・安心基盤学Ⅳ」に興味がある人は、ぜひ調べてみてください。座学の授業とは比べものにならないほどの活動量ですが、得難い経験が待っています!

2021年度の運営学生

プロフィール写真

須田 尚人

所属:北海道大学 大学院 国際食資源学院 修士課程

雄大な自然と一人暮らしに憧れ北海道へ。農業体験サークルでの活動を通じて北海道での食と農に関心を寄せていました。そんな折に今回のイベントに参加し、拙いながらもメンバーをまとめる役を努めました。

プロフィール写真

本田 稜真

所属:北海道大学 大学院 農学院 修士課程

生まれも育ちも北海道は札幌。サークルで道内を自転車で旅することに、そのときの景色をきっかけに農学院へ。北大マルシェアワードでは初めての配信に悪戦苦闘しつつも皆様の発表をサポートしました。

プロフィール写真

李 澍

所属:北海道大学 大学院 国際食資源学院 修士課程

おいしいが好き。おいしいを作る人も好き。おいしいがある北海道は大好き。