椎名:DEMOLA(デモーラ)とは、DEMOLA GLOBAL社(フィンランド)が提供する産官学連携イノベーション創出プラットフォーム。2018年に日本唯一のプログラムである「DEMOLA HOKKAIDO」が始まり、運営する北海道大学を拠点に大学生・大学院生と企業担当者が共に企業のリアルな課題解決に取り組んできました。
北海道大学は日本で初めてDEMOLA NETWORKに参加したフロントランナー。DEMOLA HOKKAIDO参加者に並走するデモーラオペレーター/ファシリテーターの杉村逸郎さんとファシリテーターの椎名希美さんに、これまでの道のりとDEMOLAならではの魅力をうかがいました。
企業担当者もチームメンバー、採用されるとライセンス契約へ
2023年度で6年目に突入するDEMOLA HOKKAIDO。どんなプロジェクトなのか、教えてください。
椎名:「産学官連携イノベーション創出プラットフォーム」と言うと、ちょっと難しそうに聞こえるかもしれませんが、内容は企業と学生さんとで一緒にチームを組んで全く新しいビジネスアイデアを生み出そうとする国際的なプログラムです。コ・クリエーション(共創)を大切にしています。
もとはフィンランドのDEMOLA GLOBAL社が作った取り組みで、今は世界16カ国・60以上の大学が参加しています。
「DEMOLA PORTGUL」「DEMOLA SHANGHAI」というように各地でローカライズされていて、日本では北大が事務局となり、「DEMOLA HOKKAIDO」という名称で2018年から導入しています。
北大の中にフィンランドの大学の共同事務所があり、そこから「面白いプログラムがある」と紹介されたのがきっかけだったと聞いています。
杉村:企業が学生のアイデアを募るプログラムは他にもいろいろありますが、DEMOLAの特徴は学生4〜6名で構成するチームに必ず企業の担当者の方も入っていただいて、一緒にアイデアを練り込んでいくところ。学生だけで考えるのではなく企業さんと共に、が大きなポイントです。
チームを組んだ後は2カ月かけて課題解決に向けたワークショップやディスカッションを重ね、最終プレゼンテーションを行います。
プレゼンの場には企業からアイデアを採用する・しないの意思決定ができる方に来ていただきますので「よし、採用しよう」となった場合は、学生たちにアイデアのライセンス料という成功報酬が支払われます。ここもDEMOLAならではの特徴です。
学生にアイデアを考えさせて終わり、ではなく、ライセンス契約も含めて社会実装までリアルに進んでいく。企業さんにとっても非常に取り組みがいのある制度になっています。
「なぜ?」本質を掘り起こす姿勢でライセンス採用率73%
DEMOLA HOKKAIDOに参加できる学生は北大生だけでしょうか。
椎名:大学生・大学院生であれば北大生に限らず、どなたでもエントリーできます。ワークショップやディスカッションはオンラインで行いますので、海外からの参加もありました。
2022年8月時点で参加学生数は241名。30大学の学生が参加企業34社・37の課題に取り組んできました。そのうち27の課題がライセンス採用されており、採用率は73%に上がっています。
73%とは非常に高い採用率ですね。学生選考の基準は何ですか。
杉村:DEMOLAに参加する企業さんは1万ユーロの参加費を支払う仕組みになっています。どの企業もそれだけの先行投資をして未来を担う学生たち、20年後30年後には社会のメインプレイヤーとなるZ世代の価値観やアイデアに触れたいという意欲的な企業さんばかりですので、学生側にもそれに応えられるようなやる気や前向きさを期待しています。
北大生や小樽商科大学ビジネススクール生はDEMOLA HOKKAIDOの活動がそのまま学内の単位として認められますが、他大学の中には単位にならなくても「自分の成長のために」と応募してくる学生もいます。
我々事務局としても責任を持って「この人をこのプロジェクトに送り出したい!」と思える応募動機に惹かれます。
2022年度の企業課題(エントリー終了)を見ると、札幌の菓子メーカーのブランディングや北海道長沼町のまちづくり、高知県にあるキャンプ場の活用案など、いろいろなお題が提示されています。
椎名:学生チームが課題を考えていくと当然、壁にぶつかる場面が出てきます。そういうときこそ、私たちファシリテーターの出番。内容や専門分野に応じて「この人に話を聞いてみては?」「こういうアプローチをしてみては?」というサジェスチョンをしています。
幸い、総合大学である北海道大学にはさまざまな分野の研究者がおりますし、マーケティングのことなら小樽商科大学に、というように他大学にご協力いただける環境もDEMOLA HOKKAIDOの大きな強み。どの先生も学生たちが聞きに行ったときは快く協力してくださって、頼もしいメンターのような存在です。
なかにはチームが直接、競合企業さんに問い合わせることもあったりして、私たちがその行動力に驚かされることも(笑)。学生だから突破できることもあるようです。
杉村:どんな課題でも、どのチームにも共通して言えることは、表面的な解決策ではなく課題の本質を掘り起こす必要性が必ず出てくること。ここが学生・企業の双方にとって非常に有意義な経験になると考えています。
課題を抱える現状に対して「なぜ、○○なのか」と本質を問う姿勢は、SDGsの17のゴールを考える上でも等しく求められることですよね。そういう風に考えられる人材を一人でも多く増やしていくことが、DEMOLAの核心なのではないかと思っています。
DEMOLAで体感する多様性を成長の糧に
活動5年目を終えて、DEMOLAを経験した学生にはどういう成長が見られますか?
椎名:まず、大学の勉強やアルバイトと両立しながらDEMOLAを最後まで完走するだけでもとても大きな成長体験になると思います。
その中でも特に得難い経験は、普段一緒にいる気心の知れた友達ではなく、DEMOLAで初めて出会った仲間や企業さんと真剣に議論を重ねること。
互いのいいところをリスペクトし多様性を認め合う経験がきっと、この先の人生にも生かされていくのではないかなと感じています。
修了生の中にはDEMOLA後に同じメンバーで他のプロジェクトに挑戦している人たちもいますし、起業した人やNPO法人を立ち上げた人もいます。少しずつですが、未来に向けていろんな種まきができているようで嬉しいです。
杉村:これからの持続可能な未来は他者と自分を必要以上に比べたり、世間的な平均値にとらわれない生き方が求められるとき。そう考えると、DEMOLAの活動を通して「自分はこうだ」「これが得意だ」と思える絶対的な強みが見つかれば、多様性溢れる時代を生き抜く大きな支えになると思います。
少しでも興味があるのならば、どんどんチャレンジしてほしいですね。
我々事務局のことを振り返れば、2018年のスタート以降、今の学生たちが通ってきた中高時代の学習環境や社会情勢も年々変化していますので、DEMOLA HOKKAIDOも毎年アップデートの繰り返しです。
これからも参加してくれる学生や企業さん双方に気持ちよくイノベーション体験をしていただけるように、運営体制の見直しを続けてまいります。
杉村 逸郎 デモーラオペレーター/ファシリテーター
所属:北海道大学 産学・地域協働推進機構 部門長 特任教授
「年齢や出身大学に関係なく、ハードな時間を共有した仲間とのつきあいは一生もの。企業とのつながりもできて得られるものはたくさんあります」
椎名 希美 ファシリテーター
所属:北海道大学 産学・地域協働推進機構 特任准教授
「参加企業さんからは『固定概念が崩れた』と言っていただくことが多く、学生との共創がイノベーションにつながっていることを実感しています」