世界各国の大学生・大学院生が社会課題解決のためのアイディアを競う世界最大の学生企業アイデアコンペ、Hult Prize(ハルトプライズ)。ハルトプライズ財団が主催し、国連が示すSDGsに関連したテーマが毎年設けられ、勝利チームには企業資金として100万ドルが贈られる。これに、2019年度、フードロス削減のビジネスプラン構築に取り組んだ企画で参加。2019年12月に行われた北海道大学の学内予選では、3位で予選を突破し地区予選へ進出。2020年4月にオンラインで開催された地区予選は惜しくも突破することができなかった。チーム名のSophosは、2年生を意味する英単語「Sophomore」と、賢者を意味するギリシャ語「σοφός(ソフォス)」を合わせた造語。
今回インタビューしたのは、石川結女(理学部4年)さんと寺本えりか(文学部4年)さん。チームSophosとして2019年度のハルトプライズに挑戦し、北大予選を勝ち上がるところまで行きました。お二人は、このハルトプライズの経験で何を感じたのでしょうか。
賞味期限やおすすめレシピを伝えるアプリを考案
ハルトプライズでチームSophosが取り組んだテーマを教えてください
石川:私たちが取り組んだのは、家庭内のフードロス削減につながるアプリの開発です。
フードロスというテーマはどのようにして決まったのですか?
寺本:自分たちの生活に身近な問題なら、学部生の私たちにもできることがあると思い、たどり着いたのがフードロスというテーマでした。ただ、4人の学部や専門分野がまったく違ったこともあり、テーマが決まるまでにはとても時間がかかりました。
確かに4人とも専門分野が違いまね。4人はどこで知り合ったのですか?
寺本:北海道大学には、グローバル社会で活躍する力を身につけられる「新渡戸カレッジ」というプログラムがあります。新渡戸カレッジはどの学部生でも受講可能で、私たちは4人とも新渡戸カレッジ生で、そこでみんなと知り合いました。
石川:私と寺本さんは、新渡戸カレッジに入る以前から住んでいる学生会館(寮)で知り合っていて、ハルトプライズへの出場は、私から寺本さんに声をかけたのが始まりです。
出場することになったきっかけは?
石川:偶然、ハルトプライズを運営していた人から、今年は出場するチームがまだ集まらなくて困っていると聞いて、じゃあ出場してもいいですよと言って、メンバーを集めました。SDGsとか日頃は考えていなくて、ハルトプライズに出てみてもいいかなというくらいの感覚でした。自分の専門分野では、地球温暖化とか考えないので、地球に住んでいる身としては、知っておいたほうも良いかなと思ったのと、大会はすべてが英語なので、得意な英語をどこかで使えたらいいなと思い、参加しました。
学内選考を通って、次のアジア地区大会に出ることになり、オーストラリアに行く予定でしたが、コロナのためオンライン大会になってしまい、アジア大会も突破できずに終わりました。
考案した「フードロス削減アプリ」は、どのようなアプリですか?
石川:冷蔵庫にある食べ物を登録することで、賞味期限をリマインドしてくれたり、その食べ物を使ったレシピを考案してくれたりするアプリです。実際にアプリを作ることはできませんでしたが、手動で試すことはできました。3人に、家にある食べ物の写真をLINEで送ってもらい、賞味期限が切れそうなときに、リマインドやレシピ案をLINEで送る、ということをやってみました。
利用者の反応はどうでしたか?
石川:レシピを提案してくれるのは、とてもありがたいという反応をもらいました。その一方で、外食の予定が急に入ったりすると、食品を使う予定をずらすといったコントロールはできません。その点はなかなか難しいと感じました。レシピを送っても、料理すること自体が面倒という場合もあります。
寺本:フードロスを減らすことに手間がかかってしまうと、いかに動機づけるかが、難しかったですね。
ハルトプライズ北大予選を突破
北大予選では、どのような発表を行ったのでしょうか?
寺本:英語で約6分間、スライドを使って発表しました。北大予選の段階では、アプリの実践はまだできていなかったので、フードロスについて調べた事と、アプリのアイディアを話しました。
北大予選では、学部2年生ながら、8チーム中見事3位という結果でしたね。予選当日はいかがでしたか?
寺本:会場はそれほど大きくなく、アットホームな雰囲気だったので、落ち着いて発表できたと思います。
石川:他のチームとの交流も良い刺激になりました。留学生は場慣れしていて、さすがに発表が上手でしたね。休憩時間は会場に用意されていたものを食べながら他のチームと交流できて、楽しかったです。
収益化の仕組みづくりに苦戦
北大予選後は、どのように活動を進めたのですか?
寺本:身近な人を対象に、フードロスに関するアンケート調査と、先ほど話したアプリを手動で試すことを、行いました。アンケート調査は、どのような食べ物を、どれくらいの頻度で捨てているのか、といったことを聞くものです。アンケートでより身の回りの現状を知り、また、アプリのアイディアの実践も行い、次の地区予選に挑みました。残念ながら地区予選突破はなりませんでしたが。
今改めて振り返ってみて、反省点、もしくは苦労した点などはありますか?
石川:ハルトプライズはビジネスコンテストなので、ビジネスとしてどのように利益を上げて成長させていくのかも考える必要があります。その視点で物事を考えたことはこれまでなかったので、そこが特に難しかったですね。
寺本:予選までの間に、ビジネスをやっている方やSDGsに詳しい方からアドバイスをもらえるワークショップが何度かあるのですが、そこでもいかに利益を上げるのかについて指摘されました。
石川:わざわざお金を払ってフードロスを減らそうという人はなかなかいないと思うので、収益化の仕組みづくりには本当に頭を悩ませました。企業の立ち上げから成長までの計画の立て方を勉強できたという点では、すごく良い経験になりました。
現状を正しく知ること、異分野の人と交流することが大切
他に、SDGs、特に今回取り組んだ食べ物について、何か意識が変わりましたか?
石川:SDGsについては以前から知っていたのですが、今回フードロスの問題に取り組んで、食べ物に対する意識が変わりました。普段の生活でも、フードロスの場面を見かけると、反射的に反応してしまうほどです。
SDGsはいつ頃から知っていたのでしょうか?
石川:高校生の時に、模擬国連といって、国連の会議を真似た会議をする機会があり、その時にSDGsについて知り、少し調べたことがありました。また大学に入ってからも、授業でSDGsの話を聞く機会がありました。
SDGsに触れる機会が多かったのですね
石川:SDGsのような地球規模の問題は、なかなか自分事として捉えることは難しいのですが、日常の何気ないところからでも考える第一歩になっていた気がします。フードロスも、ハルトプライズの活動を通じて現状を知ったことで、自分事として捉えられるようになったと思います。
寺本さんも、以前からSDGsを知っていたのですか?
寺本:私の場合、高校生の時は問題意識を強く持っていたわけではなかったです。ただ、大学に入って、自分の専門とは関係のない授業を受けたり、自分とは異なる分野の人たちと話したり、そういう所から問題意識が生まれてくることが多かったように思います。
私は社会学が専門で、社会の仕組みを批判的にみて、課題を発見するようにしています。SDGsだからといって全部が良いわけではないという視点も大切だと思っています。ただ、社会学的な見方に偏ってしまいがちで、それはそれで問題の一面しか見えません。そこに執着してしまうと、その裏にある多くの問題を見落としてしまう可能性もあるので、異なる専門の仲間の意見を聞くようにしました。
チームSophosの4人で取り組んでみて、いかがでしたか?
石川:4人で話していると、寺本さんはジェンダーや教育の観点から、他のメンバーが気づかない点を指摘してくれることが多かったですね。それは普段なら気にも留めない点だったりするので、すごく新鮮でした。
寺本:私も、理系の人の話を聞いていて、勉強になることは多かったです。自分にとって当たり前のことでも、それを当たり前だと思わない人もいて、そういう人と議論するのが大事だなと感じました。
自分とは異なる分野の方から、多くの学びを得たのですね
寺本:フードロスの問題は、理系の人が多く関わるイメージですが、例えば「他者をある行動にどう動機づけるか」という点は、理系だけでは解決できない問題です。ハルトプライズや新渡戸カレッジに限らず、他分野の人と交流する機会や、自分の専門を幅広く活かせる環境が、もっと広がればいいなと思います。
[企画・制作]
北海道大学 URAステーション/SDGs事業推進本部(企画)
株式会社スペースタイム 中村 景子(ディレクター・編集・ライティング) 細谷 享平(ライティング)
平田 憲
所属:北海道大学 理学部 地球惑星科学科 4年
札幌生まれ札幌育ち。夏より冬派。気象に詳しく、Sophosメンバーで旅行に行く際には天気予報をしてくれる。Hult Prizeではイギリス訛りの英語で活躍。
寺本 えりか
所属:北海道大学 文学部 社会学研究室 4年
兵庫県生まれで札幌の秋が好き。専攻は教育社会学。Hult Prizeでは、普段学んでいる社会学ではあまりない、実践的に頭を使うことの難しさを痛感した。
石川 結女
所属:北海道大学 理学部 生物科学科高分子機能学 4年
北海道の自然に憧れて北大へ。実際には札幌が都会でびっくり。Hult Prizeを通して自分の住む地球について考えてみたり、面白いチームメンバーと出会うことができて良かったです。
清水 嘉人
所属:北海道大学 農学部 森林科学科 4年
神奈川県出身だが、森林について学べることと、漠然とした憧れがあったことで北海道に。Hult Prizeで初めて「社会起業」に触れ、ビジネスによって世界に変化をもたらすことに魅了され、大きな刺激となった。