山中:SDGs達成のために重要なのは、まずはとにかく学ぶことです。そして、学んだことを社会で活用し、未来を創造していかなければなりません。

山中 康裕 教授

山中 康裕 教授

山中康裕先生は、10年以上に渡って、サステナビリティの教育と実践に力を注いできました。現在は、持続可能な社会の実現に向けて、北海道の自治体、企業、高校などと幅広く連携し、社会調査や教育活動に取り組んでいます。研究者と教育者のどちらの視点も大切にされている山中先生に、持続可能な社会のために今何が必要なのか、お話を聞きました。

世界を見据えてサステナビリティに取り組む北海道大学

北大の中でも早くからサステナビリティに取り組んできたと聞きました

山中:北海道大学が正式にサステナビリティを掲げたのは、国連でSDGsが採択される10年も前の2005年のことです。当時中心となっていた先生たちを第一世代、現在中心となっている出村先生たちを第二世代と呼ぶなら、僕はその中間の第1.5世代です。

山中先生の目から見て、第一世代の方たちが動き始めたきっかけは何だったのでしょうか?

山中:第一世代の先生たちは、世界を見ていたことが一番大きかったと思います。中でも、アフリカや東南アジアの発展途上国を実際に訪れて研究されている先生が多かった。北海道大学として、大いに誇るべき点だと思っています。

その先生たちからバトンを受け、山中先生はどのようなことに取り組まれたのでしょうか?

山中:代表的なものを上げると、学部横断型の教育プログラム「新渡戸カレッジ」の大学院版を立ち上げ、初代教頭を務めたことでしょうか。開講は2015年度で、SDGsが国連で採択されたのが2015年9月。つまりSDGs採択前に始めたことになるのですが、開講時からSDGsに着目していました。採択以前に、SDGsについて講義を行い、北海道大学がSDGsにどう貢献できるか学生たちに考えさせるプログラムを、すでに作っていました。

北海道の各地域と連携し課題解決に取り組む

現在は、地域と広く連携して活動されているようですね

山中:北海道で様々な社会調査を行っています。例えば、北海道を訪れる外国人観光客にアンケートを取ったことがありました。この時は、調査から観光事業の改善案を提案し、課題解決に貢献することができました。他には、道内の小学校のスキー授業について調査したこともあります。社会調査では、いわゆる産学連携ではなく、北海道の困りごとを聞くという姿勢を大切にしています。

北海道の観光に関する日中英3カ国語のアンケート用紙(サンプル)

北海道の観光に関する日中英3カ国語のアンケート用紙(サンプル)

地域と一緒に課題解決に取り組んでいるのですね

山中:もう一つ、力を入れているのは、北海道の高校生を対象とした教育活動です。中でも、「持続可能な世界・北海道高校生コンテスト」が盛り上がりを見せています。これは、道内の高校生から、自分たちの活動をSDGsの視点から紹介する作品を募るコンテストで、昨年度の第3回では49作品の応募がありました。私を含む大学の先生や学生のみならず、SDGsを実践している行政・NPO・企業の多くの人々が、すべての作品に本気でコメントをつけます。

高校生にとっては貴重な経験になりますね

山中:コンテストは、高校生同士の交流を生む場にもしたいと考えています。参加校をオンラインでつないで交流会を行いますが、私が話すのは3時間の内の1時間程度。残りの2時間は、高校生同士で話し合う時間にしています。

持続可能な世界・北海道高校生コンテスト交流会の様子

持続可能な世界・北海道高校生コンテスト交流会の様子

これから必要なのは「学ぶ力」

高校生対象の教育活動の、狙いは何でしょうか?

山中:高校生には、日常の中でも学び続ける姿勢を大切にしてほしいと思っています。学びは学校の中で閉じたものではありません。社会で活かしてこその学びです。そこで必要となるのは、小手先のテクニックではない、本当の意味での「学ぶ力」。自ら課題を見つけ出し、調べて、試行錯誤を重ねながら、考えを深めていく力です。

課題を見つけ、調べて、考えを深めるという一連の流れは、大学の研究がまさにそうですね

山中:本来これは大学で身につくもので、研究する能力と呼んでもよいものです。しかし時代が変わって、今では社会の誰もが「学ぶ力」を持つ必要が出てきています。
一方で北海道では、高校卒業後に大学等に進学するのは全体の約半数に過ぎません。残りの半数の人たちは、高校が教育を受ける最後の場になります。だからこそ高校でも「学ぶ力」を教える必要があるわけです。高校には総合探究の時間があるものの、専門の先生はおらず手薄になっていますから、今はそこに力を入れて取り組んでいます。
大学が地域のハブになって、地域の知の拠点になればという話がありますが、残念ながら、多くの市町村で大学はおろか高校すらない状況です。人口もものすごい勢いで減っていくわけで、例えば北海道の大きな中核都市と石狩圏を除くと、日本の人口の1%が広大な北海道に住んでいるんですよ。
こういう所でゼロカーボンとか言ったって仕方ありません。要するにこれだけ人口が減るんだから、高校を結んでいろいろなことをしましょうという事を今考えていて。オンラインが実はとても重要なアイテムになっています。オンラインでやれば北海道の交通とか、離れていることに左右されることなく、素敵なイベントが一生懸命できてしまう。

「学ぶ力」の模式図

「学ぶ力」の模式図

幸せな社会や人生の在り方をみんなで考えていく

誰もが「学ぶ力」を身につけた先には、何があるのでしょうか?

山中:今までは、いい大学に入って、社会に出て働いて、経済活動を回していくことが、良い人生だと教えられてきました。言ってしまえば、GDPを上げるための教育がなされてきたわけです。しかし、これからは違います。ウェルビーイングと言って、人々がどう幸せになるかを考えていく時代です。そこでは、世代間での学びも重要になります。20代のことは20代の人に、50代のことは50代の人に教えてもらわないと分からないですからね。高校生も社会人もお年寄りも全員が交じって、幸せな人生の在り方について学び、考えていく必要があります。

学校でも社会でも、みんなでウェルビーイングについて学び、考え続けていく世界ですね

山中:すでに世界は動き始めていて、スコットランドは生理用品を無料化しました。ニュージーランドは国家予算を組む際に、政策がウェルビーイングに適っているか検証することを始めています。これからは、社会にいる全員で、幸せな未来を創造していかなければなりません。重要なのは、とにかく学ぶことであり、その下支えになるのが「学ぶ力」です。そして、学びを牽引していくべきは、北海道でいえばやはり北大生です。大学で多くを学んだ卒業生こそが、学んだことを社会で使い、先頭に立って未来を創造していかなければならないでしょう。

 

[企画・制作]
北海道大学 URAステーション/SDGs事業推進本部(企画)
株式会社スペースタイム 中村 景子(ディレクター・編集・ライティング) 細谷 享平(ライティング)
PRAG 中村 健太(写真撮影)

プロフィール写真

山中 康裕 教授

所属:北海道大学大学院 地球環境科学研究院

環境教育、実践環境科学、地域研究
元々、数値シミュレーションを武器に、気候変動を研究する自然科学者。40歳代に出会った事業仕分け・東日本大震災を契機に、多くの人々とともに学問領域・職域・地域・世代を越えて自ら学ぶ、社会と対話する教育者。