准教授 胡桃澤 清文
所属:大学院工学研究院・大学院工学院(工学部環境社会工学科資源循環システムコース)
専門分野:資源循環・コンクリート工学
研究のキーワード:セメント・コンクリート・サステイナブル社会
出身高校:松本深志高校(長野県)
最終学歴:東京工業大学大学院総合理工研究科
HPアドレス:https://emr.eng.hokudai.ac.jp/
※この記事は「知のフロンティア」第4号に掲載した記事を、ウェブ用に再編集したものです。
研究を始めたきっかけは?
私がこの研究を始めたきっかけは大学4年生のときに配属された研究室がコンクリートを研究している研究室であったためです。大学に入学するときには建物を建築できる建築士になりたいと思って建設学科に入学しましたが、コンクリートという不思議な材料に出会い、その魅力にはまってしまいました。コンクリートというと皆さんは何からできているか知っていますか?コンクリートはセメント、水、砂と砂利を練り混ぜて固めて作っています。そして皆さんの多くが誤解しているかもしれませんが、コンクリートは水を混ぜて乾燥して固まっているのではありません。セメントと水が化学反応を起こして新しい水和物とよばれるものを生成してそれが砂や砂利を結合して固まっているのです。そのためコンクリートの品質を向上させるためにはセメントと水の化学反応をコントロールすることが非常に重要であり、コンクリート構造物を製造している現場ではコンクリートを打設した直後には水を散布している風景が見られます。これは水を供給してあげないと反応がうまく進まないため行っており、これが行われないと欠陥が生じてしまう場合があります。このようにコンクリートは奥が深いため私は現在までコンクリートにかかわる研究を20年近く行っています。
現在どんな研究をしているのか?
コンクリートには現在多くの産業廃棄物が使用されています。例えばセメントを製造する際には多くの都市ごみが使用されている場合もあります。さらにセメントには石炭火力発電所から排出されるフライアッシュや製鉄所から排出される高炉スラグ微粉末を混ぜている場合もあります。このように産業副産物を混ぜているため普通のセメントだけを用いたコンクリートとその性質が異なっています。したがってフライアッシュや高炉スラグ微粉末を使用したコンクリートの物性を把握することが必要となります。そのためには、水和物の大きさであるナノレベルからコンクリート構造物の構造計算に至るメートル単位までの構造を把握する必要があります。したがって数多くの最新の実験装置を用いてこれらの把握を行おうとしています。写真に電子顕微鏡で見たセメントと水だけを混ぜて反応させてできた硬化体の硬化セメントペーストの断面像を示します。白い部分が未反応のセメント粒子で、その周りの灰色の部分がセメントが反応して生成された水和生成物、そして黒い部分が空隙を示しています。左の写真が水の量が少ない硬化体、右が水の量の多い硬化体を示しています。
水の量が少ないと未反応のセメントが多く残ってしまいます、しかしその周りはちゃんと水和生成物でおおわれています。逆に水が多い硬化体では黒い空隙が多く観察されます。これだと地震などの強い力が加わると壊れてしまいます。実際にこの2つの硬化体の圧縮強度を比較すると水の少ない硬化体の方が強度が高いことがわかっています。したがってミクロの観察からマクロの性質を予測することができます。このように私たちの研究室ではナノからミクロ領域における微視的な観察結果から巨視的なマクロな性質を予測することを研究しています。電子顕微鏡はそのツールの一つでその他にも最新の機器を用いて研究を行っています。
今後はどんな研究を行うのか?
コンクリートはセメント、水、砂および砂利を使用して作製していることを述べましたが、セメントを製造する際には、どうしても二酸化炭素を排出してしまいます。それはセメントの原料である石灰石(CaCO3)を1500℃近くの高温で焼成するために(CaCO3→CaO+CO2)二酸化炭素が必ず排出されてしまいます。そこでセメントを一切使用しないセメントフリーのコンクリートの製造を目指しています。これは現在一般的に使用されているコンクリートをセメントコンクリートと呼ぶのに対してジオポリマーコンクリートと呼ばれる技術です。ジオポリマーコンクリートは、原料であるフライアッシュと高炉スラグ微粉末に水酸化ナトリウムなどのアルカリ刺激剤を加えることによって反応を起こし固化体を作製する技術です。この技術はまだ日本では本格的に使用されていないため、これを普及させるために硬化反応メカニズムや長期的にジオポリマーコンクリートが使用できるかどうかの耐久性について研究を行う予定です。将来的には産業から排出される材料を新しい建設材料として適切に生まれ変わらせる技術や評価手法の確立を行い、循環型社会を構築するための一助となるような研究を行っていきたいと思っています。 皆さんも社会の一員としてなにかしら社会に貢献をできるようなことができる人間になっていただきたいと考え日々学生と研究を行っています。