西川:環境問題に対する関心は人それぞれ。大事なことは「自分は自分」という気持ち。多様な人が集まる北海道大学ならきっとウマが合う友達が見つかります!

 

西川 優嗣

西川 優嗣さん(マレーシアにて)

北海道大学のグローバルプログラムHSI(Hokkaido Summer Institute)公認の学生団体HSI Team OMOTENASHIのメンバーである農学部2年の西川優嗣さん。環境問題に関心を持ったきっかけは?どんな活動をしているの?高校生に届けたいメッセージを聞きました。

グレタさんのスピーチとマイクロプラスチック問題

学生主体のSDGs活動に熱心に取り組み、2022年8月には「子どもSDGs大学」で講師も務めた西川さん。社会問題や環境問題に関心を持ったのはいつからですか?

西川:小さい頃から自然が好きで、好奇心も強いほうでした。勉強も苦手じゃなかったんですが、高校に入ってから受験偏向の授業がイヤになって、母の母国である中国に1年間留学したことがあるんです。
向こうでは先生がとてもフレンドリーで学生も授業中にバンバン手を上げる、すごくいい雰囲気だったんですが、ある時、クラスメイトと卓球中に僕が優勢になると過去の戦争を持ち出してイジられたことがありました。彼らは別に悪気があるわけではなく、授業で日中戦争や日本軍について教わったことをもとに、軽い気持ちでそう言っただけ。冗談交じりだったと思います。

でも僕はその時、なんて言い返したらいいかわからなくて。その時にようやく、勉強する意義に気づいたというか、国同士のことも含めて社会問題を解決するために頑張りたいという気持ちに切り替わりました。

社会問題の中でも特に環境問題に関心を持つようになったのは帰国後の高校2年のとき、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが国連気候変動会議でスピーチをしたニュースを見たんです。これはものすごいインパクトでした。
同じ頃、学校に海洋マイクロプラスチックの研究をされている教授が講演に来てくれて、今起きている環境問題を聞いて「これはヤバい。人類存亡の危機なんだ」と実感しました。

それからです。学生気候危機サミットに参加したり、友達と団体を立ち上げて街中を練り歩く「気候マーチ」を企画したり、大手銀行に「(石炭産業へ資金を貸し付ける)石炭投資をやめてください」というビデオメッセージを送ったこともあります。

実際に活動を始めてみて、どんなことがわかりましたか?

西川:世の中には「社会が、世界が変わる」と本気で思えない、悲観的な人が多いということがわかりました(笑)。僕もその影響を受けて、一時は「この活動に意味はあるんだろうか?」とあきらめかけたこともありましたが、でもやっぱり活動をすれば一定数の人は関心を持ってくれます。
学校では、地学部の中に「エコ班」を作って、校内で環境意識アンケートをとって新聞にまとめて貼り出したりしてました。

千葉県にいた西川さんが、北大に進学しようと思った動機は何だったんですか?

「環境問題を解決したい」と思っても、まずどこからアプローチしたらいいかわからないですよね。でも北大は「総合入試理系」という枠組みで受験でき、入学後1年間は理系の学問分野を広く学んで、2年目から学部に移行する流れになっています。
つまり1年間は、自分の関心や目標が固まるまで猶予がある。そこがすごく魅力でした。あと、北海道の自然に憧れて、というのも受験動機の一つです。

農学部に決めたのは、学部1年の時に体験した酪農インターンがきっかけです。北海道に来たからには北海道らしいことをしようと、道東の酪農家さんのところに1週間くらい住み込みで働いたんですが、その時に終日牛舎に繋がれている牛を見て、「広い牧草地で伸び伸びと育っているんだろうな」と思っていたイメージとのギャップがありすぎて。
「この牛たちをどうにかして解放してあげたい」という思いと、ちょうどその頃話題になっていた培養肉(人工的に動物の細胞を培養して作るお肉)に対する関心が重なって農学部の畜産科学科に進みました。
「培養肉」と聞くとちょっと引いちゃう人もいるかもしれませんが、実は地球温暖化の原因の一つである牛のげっぷから出るメタンガス問題や、家畜が食べる飼料と人間が食べる食料の間で起きている競合問題も培養肉が解決の糸口になるとも言われ、今世界で研究が進んでいます。
日本ではまだ培養肉や培養ミルクが食べられるほど研究が進んでいませんが、いつか自分の手で商品化できるときまで本物の牛肉や牛乳はなるべく控えめにしようと思っています。

酪農インターン

酪農家の仕事は、朝4時から夜7時まで毎日体力勝負。牛のように食べ、牛のように寝て体を回復させることがポイントです。

牛の食事と“うんち”を解説した「子どもSDGs大学」

留学生と交流する学生団体「HSI Team OMOTENASHI」に入ったいきさつは?

西川:1年生の時はイベントの一参加者だったんですが、2年になってリーダーの川手に「スタッフとして一緒にやってみない?」と誘われました。
主な活動として、サマースクールの参加者や北大生、留学生たちに呼びかけてオンライン雑談会を開きました。2022年には新しく文化交流イベントとして、北大オーケストラと協力したアンサンブルコンサートや、折り紙を楽しむ「ORIORIGAMIGAMI」も実施しました。僕はこの折り紙イベントを担当しました。

2022年10月に開催された「HSI SDGs Challenge Competition 2022」は、SDGs17の目標のうちの12番「つくる責任 つかう責任」にフォーカスしたアイデアを学生たちから募るイベントです。個人・グループを合わせて6チームが参加してくれました。
これは個人的な反省ですが、コンペというと硬いイメージが強くて、もしかしたら参加しづらいと感じた人もいたのかも。例えば「コロナ禍で使ったアクリル板を今後どう使う?」とか、もうちょっと楽しくラフに参加できる色も出していきたいなと思いました。
マンパワーが増えるのは大歓迎なので、OMOTENASHIのスタッフに興味がある人はいつでも気軽に声をかけてください!

企業さんから「北大生と一緒に何かSDGs活動をやりたい」という話がきたときにも「HSI Team OMOTENASHI」の力はとても頼りになると評判です。2022年8月に開催した北海道大学×HBC『「子どもSDGS大学」〜いのちのつながり』も、西川さんたち畜産クラスの3人が手がけたポスター展示が大好評だったとか。どんなことをしたんですか?

西川:テーマが食べ物から“うんち”までのつながりだったので、1枚目のポスターで牛のからだと、僕たち人間にはできない「草を食べて牛乳を作る」仕組みを解説して、2枚目は牛によって得られる恩恵とメタンガス排出などのデメリットについて発表しました。3枚目では実際に今学内の牧場で行われている放牧畜産を紹介し、最後に牛の糞の生分解過程と窒素の循環を写真で解説しました。
はじめは糞そのものを展示しようと思ったんですが、却下されまして(笑)。かわりに普段乳牛が食べている牧草や飼料を持ち込んで、その匂いや手触りを感じてもらいました。さらに「牛肉を1kg作るのに飼料の穀物が11kg必要になる換算だ」という研究データを子どもたちに実感してほしくて、本物の牛肉1kgと濃厚飼料(牛に与える穀物飼料)11kgも用意してもらいました。

参加してくれた子どもたちが積極的に手をあげてくれたり、僕たちより動物に詳しい子もいたりしてすごく楽しかった。一番嬉しかったのが「自分も北大に入って動物を勉強したい!」と言ってくれた子がいて、頑張って準備して良かったなと思ってます。

通常の授業もあり、大変だと思いますが、西川さんの活動の原動力はなんでしょうか?

西川:僕は基本的には「何かやりたいことがあれば、高校生でも大学生でもやればいい」と思っていて。「あれがやりたい、これも面白そう」という好奇心もあるんですが、それ以上に「今しかできないことをやらなかったら後で絶対後悔する」という気持ちが全てのモチベーションになっています。今できることをやろうよ、ということです。

写真に合わせた解説例もお書きください)「子どもSDGS大学」で展示したポスター。□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

草の消化に特化した体をもつ牛。反すうや、ルーメン発酵、複数の胃を持つことが特徴です。(ポスターはクラスメイトの渡部君が作成)

多様性ある仲間と共に「自分は自分」を大切に

この先、ご自身の進路はどんな風に考えていますか?

西川:僕は自他ともに認める甘党なので、将来の夢は培養ミルクでシュークリームを作ること。それを実現するには、培養肉や培養ミルク研究が進んでいるアメリカの大学院に進学したいと思っています。
その先はまだ考えていなくて、現地で働くか、もしくは日本で会社を立ち上げるか。教えることも好きなので教職の道もあるかもしれません。

環境問題の活動をしていると、大人との接点が多いと思います。何か感じることはありますか?

西川:大学生になって感じるのは、やっぱり高校生の時より責任が重いですし、大人の許可をもらえないと実現できないことが増えてきました。無論、大人になると守らないといけないことが多くなりますし、「何をするか」よりも「それをどう実現するのか=How」に思考回路が傾いていく。特に日本人は「なにかあったらどうするんだ症候群」が強いとも言われていますよね。
でも僕が思うに、いつも現実ベースで考えていると、いつまでたっても現実以上に発想も可能性も膨らんでいかないんじゃないか…ということも考えるようになりました。

その一方で、大学生になって自分の活動がやりやすくなった理由に、北海道大学の規模の大きさがあげられると思います。いろんな多様性を持った人たちが集まってくるので、自分がやりたいことに賛同してくれる仲間やメンバーを集めやすくなりました。

最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします。

西川:僕が一番大切にしているのは、どこにいても「自分は自分だ」ということ。高校時代の自分もそうでしたが、周りを気にしすぎている人が多いように感じます。大学はたくさん人がいるので自分と意見が違う人がいて当然ですし、その反対にすごくウマのあう友達とも必ず出会えるはず。
僕は北大の「総合入試理系」を受験して1年生の時に酪農インターンを経験していなかったら、今の自分はいないと思います。皆さんも「自分は自分だ」と割り切って、北海道での大学生活を楽しんでください!

札幌から羊蹄山までサイクリング。賢い人は車で行くことを強くおすすめします。

プロフィール写真

西川 優嗣 さん

所属:北海道大学 農学部畜産科学科2年

高校2年の時に知ったグレタさんやマイクロプラスチック問題をきっかけに環境活動に取り組み始める。北海道大学では学生団体HSI Team OMOTENASHIに所属。「子どもSDGs大学」の講師を務めたことも。