准教授 伊佐田 智規
所属:北方生物圏フィールド科学センター・厚岸臨海実験所(理学部生物学科(生物学))
専門分野:生物海洋学
研究のキーワード:海洋微生物、植物プランクトン、海洋生態系、気候変動、環境動態解析
出身高校:小樽潮陵高校(北海道)
最終学歴:北海道大学大学院環境科学院
HPアドレス:http://www.fsc.hokudai.ac.jp/akkeshi/
※この記事は「知のフロンティア」第4号に掲載した記事を、ウェブ用に再編集したものです。
何を目指しているのですか?
海洋微生物の一つである植物プランクトンが光合成によって作り出した有機物は、海洋生態系における食物連鎖の出発点です。また、植物プランクトンは光合成によって二酸化炭素を吸収するので、どこにどんな種類の植物プランクトンが出現して、どれくらい光合成(二酸化炭素を吸収・固定)しているかを正確に把握する事は、今後の地球温暖化を含めた気候変動を予測する上でも極めて重要です。私は、広い海の中でも、特に親潮域の海洋生態系の解明を目指して研究を進めています。親潮域は、大気中の二酸化炭素を吸収する能力が世界の海の中でもトップクラスである事や、世界三大漁場の一つである事が知られています。親潮域の植物プランクトンによる高い光合成能力がこれらの主要因であると考えられています。そのため、私は植物プランクトンの分布や光合成を制御する因子を調べる事(環境動態解析)で、親潮生態系の将来予測に貢献する事を目指しています。
どんな観測や実験をしているのですか?
10 tクラスから4000 tクラスの大小様々な研究船に乗って、現場で海洋観測を行っています。海の中の水温や塩分を瞬時に測定できるセンサー(下写真左)や、植物プランクトンにとって大事な光がどれくらい、そしてどの波長の光が届いているのかを測定できるセンサー(下写真右)を使って、海洋環境を観測します。また、海水サンプルを実験室に持ち帰り、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を使って植物プランクトン色素を測定したり、光学顕微鏡や電子顕微鏡を使って、詳細な植物プランクトンの群集組成や種組成を調べたりしています。 また、得られたデータをもとに、植物プランクトンの群集組成や光合成量を推定できるモデルを開発し、それを衛星リモートセンシングデータへと応用する研究もしています。衛星データを利活用する事で、広範囲かつ連続的に親潮域のモニタリングが可能となります。
次に何を目指しますか?
日本の陸上では毎年春になると、桜に代表される様に多くの花々が咲き乱れます。それと同じく、親潮域の海でも、毎春、珪藻類を主とした大規模な植物プランクトンの大増殖が起こります。この現象は「春季ブルーム」と呼ばれ、海色衛星からもその姿が捉えられています(下図)。この春季ブルームが親潮域の食物連鎖や二酸化炭素固定量の鍵を握っていると考えられていますが、その発達メカニズムはまだよくわかっていません。親潮域の中でも、北海道沿岸を流れる沿岸親潮が春季ブルームの規模や分布に大きな役割を果たしている可能性があります。また、同じ珪藻類であっても、沿岸と外洋に生息する種では環境(例えば鉄濃度)に対する戦略が異なっており、それが春季ブルームの分布や規模に寄与しているとも考えられています。しかし、未だはっきりとした答えはなく、未知な部分がたくさんあります。私は親潮生態系のメカニズムと、植物プランクトンの適応戦略や進化の過程を少しずつ解き明かしていきたいと考えています。ぜひ一緒に海の未知を解明していきましょう!
参考書
シリーズ現代の生態学10 海洋生態学 (2016) 日本生態学会編, 津田 敦・森田 健太郎担当編集委員, 共立出版