教授 今井 晋
所属:公共政策学連携研究部(経済学部経済学科)
専門分野:応用計量経済学、産業組織論、労働経済学
研究のキーワード:移民、職業、言語能力、労働市場、貧困
出身高等学校:北海道札幌北高等学校
最終学歴:ミネソタ大学大学院 経済学部
HPアドレス:https://sites.google.com/site/susumuimai1/home
※この記事は「知のフロンティア」第4号に掲載した記事を、ウェブ用に再編集したものです。
移民受け入れの経済問題
日本は今後少子化、高齢化により労働力人口がさらに減少していくことが予想されます。よって、労働市場において新たな労働力を確保するため、日本は移民を積極的に受け入れることが必要であるという意見を多数の識者がもっています。しかし、その際に懸念されることは、移民労働者が非熟練労働者または失業者となり、貧困層を増加させてしまうことです。
カナダ、オーストラリアの移民政策:点数制度
カナダ、オーストラリアは, 移民受け入れに際して点数制度を設け、受け入れ国にとって望ましいハイテク産業等で知識集約的な職業に従事していた高学歴、高技術の労働者及びその家族を優先的に受け入れる制度をとってきました。
点数制度の実証分析:移民の職業と言語能力
私と共著者は、そのような移民政策が目的である産業の高度化をどの程度達成させたか、そしてどこに潜在的な問題があるかを実証的に分析してきました。まず、カナダに移民してきた労働者(男性)が、本国でどのような職業に従事したか、そして移民後どのような職業に従事しているかを見てみましょう(表1参照)。表では、その職業に必要とされる5つの基本的なスキル(コミュニケーション、分析、機械 操作能力、視力、肉体的強さ)の偏差値の平均が示されています。
以上の結果からわかりますように、カナダ政府はせっかく高度に知的な職業経験を持つ労働者を移民させることに成功しましたが、彼らはカナダでは逆に知的能力ではなくて、身体能力を要求されるような職業に従事しています。なぜ彼らがカナダ政府が期待した職業につけないのでしょうか。
表2では、移民労働者がカナダで働いている職業の要求する能力の偏差値から出身国での職業で要求される能力の偏差値を引いたものの平均を、カナダの公用語のレベル別に表記しています。 この表をみると、公用語の会話レベルが高ければ高いほど、移民後の職業の知的要求水準の低下が少なく、そして、肉体的能力の要求水準の上昇も少ないことがわかります。その理由としては、次のように考えることができます。高度に知的な作業を行う職業であればあるほど、作業時、そしてその結果を報告するときに高い言語能力を必要とすることが考えられます。カナダ移民局の行う点数制は、言語能力を軽視しているために、せっかく知的職業の従事者を受け入れても、彼らはその高度な知的スキルを発揮することができないのです。
日本の移民政策に関する考察
日本が受け入れる移民労働者の公用語(日本語)の言語能力の低さはカナダより深刻であることが想定されます。そこで、移民労働者へのより一層の日本語教育努力が必要となります。さらに、一部の企業、大学等においては、部分的に英語を新たに組織内公用語として導入することも一つの解決策として考えられます。 日本が本当の意味で国際化を進めるということは、日本人が外国で活動するだけではなく、ある程度は外国人も日本で活躍するようになることです。我々経済学者の役割は、移民の経済的、そして社会的効果に関する客観的な事実を調査し、それらの結果を基にして、移民者、そして日本社会の双方にとってより良い移民政策を考えることです。
参考文献
Imai Susumu, Derek Stacey and Casey Warman: 「From Engineer to Taxi Driver? Language Proficiency and the Occupational Skills of Immigrants」, University of Technology Sydney, Economics Disciple Group Working Paper No. 18, 2014.