准教授 大園 真子

所属:理学研究院(理学部地球惑星科学科)

専門分野:測地学、地震学、火山学

研究のキーワード:地殻変動、地震、火山、数値計算、防災

出身高校:錦江湾高校(鹿児島県)

最終学歴:東北大学大学院理研究科

HPアドレス:https://www2.sci.hokudai.ac.jp/faculty/researcher/mako-ohzono

※この記事は「知のフロンティア」第4号に掲載した記事を、ウェブ用に再編集したものです。

どんな研究をしていますか?

地球の地面の動き、いわゆる地殻変動を精密に測って、その原因やメカニズムを調べています。日本はプレートの沈み込み帯に位置しており、世界中で最も地震火山活動が活発な地域の1つです。私は主にGNSS (Global Navigation Satellite System、全地球衛星航法システム) と呼ばれる人工衛星を用いた精密測量の方法を使って、地震時や地震後に発生する地殻変動や火山活動に伴う地殻変動を観測してい ます。また、実際の観測から得られた変動を数値計算によって再現することで、そのような地殻変動を引き起こす地下の力学的情報の把握を試みています。地震や火山活動は人間の生活にも大きな影響を与えます。これらの研究結果が防災へ貢献もできるよう、情報提供ができればと考えながら研究しています。 現在取り組んでいる主な研究内容は次の2つです。

1.2011年東北地方太平洋沖地震後の余効変動メカニズムの解明:

2011年東北地方太平洋沖地震がおよぼす余効変動の予測値。2020年の各地域での水平地殻変動の向きと大きさを示す。

余効変動とは地震によってマントルなどにかかった応力の変化がもたらすゆっくりとした地殻変動で、大地震後数年から数十年かけて継続する現象です。日本のみならずロシアや中国などのGNSSデータを解析して、北東アジア地域全体の余効変動場を把握すると共に、この変動の今後を数値計算によって予測し、余効変動がいつ終わり、またそれが沈み込み帯で繰り返す巨大地震とどのように関係していくかについて調べています。

2.内陸地震と地下の力学的構造の関係:

2016年熊本地震などの内陸地震は、人間生活に被害をもたらすことも少なくありません。北海道にも内陸地震が多く発生する場所がいくつか分布しています。内陸地震の震源となる地殻の中は、周囲から受ける力によって変形しやすいところ、変形しにくいところ、といった不均質な構造を持っており、これらの特徴を把握することが、地震発生の可能性を評価することにもつながります。現在、北海道でも東部や北部でGNSS観測を行い、この地域の変形の特徴を捉えようとしています。また、その変形が起こるような力学的構造を、様々な研究結果とも合わせて総合的に理解できるよう取り組んでいます。

十勝岳での重力・GNSS観測の一コマ。

2011年東北地方太平洋沖地震がおよぼす余効変動の予測値。2020年の各地域での水平地殻変動の向きと大きさを示す。このほか、北海道や国内のみならずロシア極東地域の火山地域やネパールのプレート衝突帯など、海外にも観測に出かけています。GNSSなどの地殻変動データは、地震や火山活動などを把握するための重要なツールです。興味を持った場所でデータをとり、それを数値計算で再現できたとき、実際に動いている、リアルで複雑な地球のことが少しだけ分かった気分になれます。

屈斜路カルデラでのGNSS観測。

現在の研究を始めたきっかけは何ですか?

ロシアカムチャッカ、クリュチェフスコイ火山の山腹に設置したGNSS観測点。

大学で卒業研究を考える頃から地殻変動を測ることに興味を持つようになりましたが、現在の研究のきっかけはやはり2011年東北地方太平洋沖地震です。地震が発生するまでの定常的な状態、地震が発生する一瞬の時間、地震の発生後、この3つの期間はそれぞれ異なる地下の応力状態を発生させ、それに応じて異なる地殻変動を生じます。2011年の大地震ではこれらを理解するための重要な観測データが得られたといえます。この貴重なデータを十分に使って、地震発生前から後までの現象の理解を、また社会的な面でも防災のための情報提供をすることができればと思い、現在の研究に取り組んでいます。また、このような地震や火山活動などの現象が起こる前の状態の把握もその後のために非常に重要だと考えて、さまざまな場所で観測や研究を行うことにしました。

ネパール南部に新設したGNSS観測点。

今後どのような成果が期待できますか?

2011年の大地震による地殻変動データは我々に多くのの情報を提供してくれました。これまで世界で発生した巨大地震の中で、この地震の時ほど稠密な観測網で地殻変動が捉えられた例はありません。これらをはじめ、観測されたデータを詳しく解析し、他の研究結果と合わせて考えていくことで、地震、火山活動のメカニズムや、過去、現在、未来にわたる地震の発生サイクルと地下の力学的な状態の理解が進むと期待できます。地殻変動が捉える現象には、我々がまだ見ていない未知のシステムがたくさんあるはずです。「なぜこうなるのか?」と思う疑問を1つずつ解いていくことで、多くの理解が進むと考えています。