准教授 加藤 知道

所属:大学院農学研究院・大学院国際食資源学院(農学部生物環境工学科)

専門分野:植物生態学、微気象学

研究のキーワード:気候変動、CO2循環、生態系モデリング、野外観測、リモートセンシング

出身高校:私立攻玉社高校(東京都)

最終学歴:筑波大学大学院生物科学研究科

HPアドレス:https://terraecomod.wixsite.com/kato-lab-hokudai-j

※この記事は「知のフロンティア」第4号に掲載した記事を、ウェブ用に再編集したものです。

 加藤先生の研究は『北海道大学の教員による講義動画「生態系の炭素(CO2)循環」』でも紹介しています。※夢ナビに移動します。

陸域生態系は気候を変える

生態系のタイプは温度と降水量から決まっていることがよく知られているために、気候が陸域生態系を制御していると思いがちですが、実は逆に生態系も気候に影響を与えていて、その両者の間のやり取りを「相互作用」と呼びます。実際に、​森林・草原・農地・サバンナ・砂漠などで構成される陸域生態系は、大気との間で熱・水・炭素などの物質を交換していて、それらの変化は生態系自身と周辺気候を変えます。

タワーでの個葉観測(岐阜県高山市のスギ林)。高さ30mの足場を登って、個葉のデータを測ります。

森林を伐採して農地に転換すると、地表面の反射率(アルベドと言います)が上がり太陽からのエネルギーをたくさん逃してしまいます。また葉っぱが少なくなることで、蒸散で出て行く水の量が減少し、土壌の保水性も変化するために、周辺気候が乾燥するなどの変化をします。例えば、大規模に樹が伐採されているアマゾンや東南アジアの熱帯林では、今後何らかの気候変化が起こることが予想されます。また、シベリアのツンドラでは、温度が上がることで永久凍土が溶け、閉じ込められていた大量のメタン(2番目に重要な温室効果ガス)が放出され温暖化を加速する恐れがあります。また夏に凍土融解によって供給される水を利用していたタイガ林などは、乾燥で枯れてしまう可能性もあります。 このように「相互作用」の時間・空間分布や環境要因との関係を調べることは、 陸域生態系自身の挙動を理解するだけでなく、地球環境変化も明らかにすることにつながります。 私たちは、この陸域生態系の働きについて、野外観測リモートセンシング・シミュレーションモデル・統計資料分析などのありとあらゆる方法を利用した研究を行っています。

個葉からグローバルまでの物質循環を調べる

光合成が行われると、気孔を通して葉っぱはCO2を取り込み、水蒸気を放出します。その後、CO2は炭水化物に変換されて、植物体を構成し、その植物が枯死して地面に落ちると、微生物による分解で土壌を形成しますが、その過程でCO2を逆に放出します。また気孔から蒸発した水は、雨として再びどこか別の場所の陸地や海洋に戻っていきます。このように生態系で放出・吸収された物質は、大気・海洋などを介して再び生態系に戻るという循環を繰り返していて、結果としてグローバルな気候を形成しています。

東アジアの渦相関法による年間生態系CO2吸収量(NEE; Kato et al., 2008, GCBより)。
負(青○)は吸収、正(赤△)は放出を示す。ほとんどが吸収を示す。

その循環を解明するため、微気象学的な「渦相関法」による生態系-大気間のCO2収支の長期連続観測が行われています(右図;例として東アジア)。これは群落上の超音波風速計と赤外線分析計によって1秒間に10-20回という速さで観測された3次元の風速とCO2から、30分間隔のCO2のフラックス(流れ)を求める方法です。1990年代から発達したこの方法による観測は世界の500箇所以上で行われていて、どうも陸域生態系は短い平均時間(10年程度)では正味で大気のCO2を吸収していることがわかってきています。 一方で将来はどうなるのでしょうか?それを解明するにはシミュレーションモデルを利用します。先ほどの個葉光合成によるCO2吸収や、植物体・土壌が形成されるプロセスを再現する炭素循環モデルによる研究では、2050年ごろまでは主にCO2増加による光合成の活発化により、正味のCO2吸収量は増大しますが、それ以降は予測にばらつきが生じます。なぜなら、あるモデルは温暖化による土壌からのCO2放出増大を大きく見積もり、他のモデルは小さく見積もるからです(Friedlingstein et al., 2006, J. Climate)。また、森林火災、伐採、台風倒木、土地利用変化、過放牧による砂漠化などの「撹乱」を考慮した場合には、さらに結果は複雑なものになると予想されています。そこで現在は「撹乱」イベントの観測や、それを考慮したモデルの開発が進められています。

新しい観測・モデルの研究

衛星GOME-2による世界の太陽光誘起クロ
ロフィル蛍光(NASA J. Joiner博士より)。赤・黄は強い放出を示す。

近年、太陽光誘起クロロフィル蛍光という新しい植物の光合成活性を表現する指標が注目されていて、衛星(右図)や地上での観測が始まっています。これにより世界の光合成によるCO2吸収量をリアルタイム・均質に把握できるようになります。さらに天気予報で利用される「データ同化」という技術で、モデル精度を向上させて、将来の陸域生態系によるCO2吸収量をより正確に予測することが可能になります。 私の研究室では、この世界でとってもホットな蛍光を使った観測・モデル研究を、国内外の研究機関と強力に進めています。一緒に研究してくれる学生を大募集中ですので、興味がある方は是非話を聞きにきてください。

ミズナラ・ダケカンバ林に設置された蛍光測定装置。

参考書

  1. 加藤知道・羽島知洋, 2014. 第一章, 地球環境変動と陸域生態系, 日本生態学会編・原 登志彦編, シリーズ現代の生態学,「地球環境変動の生態学」, p 1-18. 共立出版
  2. 加藤知道(監訳), 2018. 生態系生態学(第2版), pp. 609, 森北出版