教授 岩渕 和則

所属:大学院農学研究院・大学院農学院(農学部生物環境工学科)

専門分野:生物資源循環工学

研究のキーワード:物質循環、堆肥化、炭化、バイオマスエネルギー、気候変動

出身高校:一関第一高校(岩手県)

最終学歴:北海道大学大学院農学研究科

HPアドレス:http://abse.bpe.agr.hokudai.ac.jp

※この記事は「知のフロンティア」第4号に掲載した記事を、ウェブ用に再編集したものです。2022年12月22日更新

目指していること

私たちの社会は,環境とエネルギーに関して多くの課題を抱えています。これらの課題を解決するのは決して簡単なことではありません。それではいかにしてこのような困難な課題を解決していくべきでしょうか。その解決の糸口となるのが“持続性(sustainability)”です。みなさんもどこかで耳にしたことがある言葉かと思います。  

図1 物質循環が成立している状態(上)と成立していない状態(下)

それでは具体的に持続性とはどのような状態を指すのでしょうか。持続性を端的に表現するのであれば,あるシステム内において物質循環が成立している状態のことを指します。ここで考えるシステムは場合によって異なります。例えば動物であれば空気,水,食料を体内に取り入れ(入力),運動や排せつという形で出力します。そして入力と出力の間では血液やリンパ液などが循環しています。このシステムに異常が発生してしまうと生命活動を維持することができなくなります。 システムは大小さまざまあり,それらは密接に関わっています。冒頭に述べた環境問題やエネルギー問題は,“自然の循環系”と“人類活動”のシステム間でうまく物質循環が成立していないがために生じた典型例と言えるでしょう。したがって,今後は本当の意味で物質循環が成立するような社会システムの構築が必要不可欠であり,教育研究を通じてそれを実現させることを目指しています。

これまでの研究について

廃棄物系バイオマスの資源化・エネルギー化に関する研究を進めています。バイオマスとは“化石燃料以外の再生可能な生物由来の有機資源”とされています。地球上に存在するバイオマスのうち,私たちがエネルギーとして利用できるバイオマスは大きく2つに分類されます。一つは稲わら,麦わら,もみ殻等の農作物非食用部や間伐材など未利用バイオマスと呼ばれるもので,もう一方は紙,家畜排せつ物,食品廃棄物,下水汚泥など廃棄物系バイオマスです。特に廃棄物系バイオマスは一見すると“ゴミ”にしか見えないかもしれません。しかし,物質循環が成立するシステムではゴミという概念ではなく,“資源”と捉えられるべきです。現実的には廃棄物系バイオマスの多くは,そのままでの利用が困難であるため,それらを適切な方法で資源やエネルギーへと変換することになります。この時,バイオマスの種類や発生量,そして発生地域や利用地域などについて検討することはもちろん大事なことですが,物質循環が成立する見込みがあるかについて熟考することも重要になります。 廃棄物系バイオマスの資源化の代表的な技術として堆肥化(composting)があります。 家畜排せつ物は国内において毎年8800万トン排出されており,これは廃棄物系バイオマスの中でも最大量です。そして家畜排せつ物の約90%が堆肥化されたのち堆肥(有機肥料)として土壌還元されます。堆肥化の主役は微生物で,彼らの助けを借りることで環境に負荷をかけることなく物質循環を成立させることができます。 自然界には堆肥化と同じような現象,すなわち動物の死骸や排せつ物を微生物が分解し土に還すという活動は至る所で行われています。しかし,家畜排せつ物のように,酪農を営む地域内で大量に発生するバイオマスを適切に管理するには,素早く堆肥化反応を進める必要があります。そのため,堆肥化反応では微生物分解を促進するため,バイオマスの材料状態(隙間,水分量,温度)を適切に整え,そこに微生物の呼吸に必要な酸素を供給(通気)することが重要になります。これまでの研究から,最適な材料状態,酸素供給量や温度などが明らかとなってきています。 堆肥にはアンモニアなどの悪臭物質を無臭化する働きもあります。堆肥化の過程ではタンパク質分解によりアンモニアが発生し臭気が問題となりますが,その臭気対策にコストをかけにくいのが実情です。堆肥中にはアンモニアを無臭化する微生物群が存在するため,堆肥を脱臭資材として利用することは合理的な選択と言えます。これまでのところ,堆肥に吸着したアンモニアは硝化菌が重要な役割を担っていることを突き止めました。

目指している研究について

国内においては堆肥の供給量が過剰になっている地域も存在するため,廃棄物系バイオマスを炭へと変換(炭化)し,バイオマス燃料として利用することを目指しています。 一口に炭化と言っても,家畜排せつ物のように水分量が多いドロドロとした材料を乾燥して炭化するのは簡単ではありません。通常,炭化を行うにはバイオマスに外部から熱を加える必要がありますが,この時に使用する熱エネルギー量が非常に多く,炭を製造すればするほどエネルギー収支が負になるといった欠点があります。現在,この課題を解決するため,微生物反応と化学反応を組み合わせ,超省エネルギーな炭化技術の確立を目指し研究を進めています。この技術は従来の炭化法とは異なり,外部から熱を加えることなく炭を製造できるため,環境に負荷をかけずにバイオマスのエネルギー化が達成されます。

図2 牛ふん(左)と牛ふんから製造された炭(右)

参考書籍

『あぐり博士と考える北海道の食と農』」北海道新聞社 (2014)

『最新 畜産ハンドブック』講談社サイエンティフィク (2014)

参考情報

(一社)農業食料工学会学術賞を受賞(2022)

「資源循環と低環境負荷を基軸とした廃棄物系バイオマスの炭化による 再資源化」

※北海道大学農学研究院のウェブサイトに移動します