小篠隆生准教授.

准教授 小篠 隆生

所属:大学院工学研究院・大学院工学院(工学部環境社会工学科建築都市コース)

専門分野:都市デザイン、建築計画、建築設計

研究のキーワード:建築計画、建築設計、都市デザイン、キャンパス計画、サステイナビリティ

出身高校:九段高校(東京都)

最終学歴:北海道大学工学部建築工学科

HPアドレス:http://www.eng.hokudai.ac.jp/edu/div/spacdes/index.html

※この記事は「知のフロンティア」第4号に掲載した記事を、ウェブ用に再編集したものです。

建築が市民や住民を再びつなぐ

滞在型図書館の事例(ぎふメディアコスモス)
設計:伊東豊雄

世界一の少子高齢化や人口現象が進む日本の地域社会では、独居高齢者の増加や子育て世代の孤立などによる社会の断片化や、かつては世代間で共有されていた地域の財産とも言えるべき絆や文化風習、それを確認できる機会や場所の喪失が、静かにしかし着実に進んでいます。 そうした中で、地域コミュニティの拠点となる公共施設も元々の建築計画の考え方を大きく変える必要があります。例えば、これまでは図書の閲覧や貸出、図書を利用した学習が中心だった公共図書館が、様々な世代や階層の市民の訪問に応え、また市民も自らの意志や目的に基づいて情報に触れ、知や文化を発見・創造する時間や機会を楽しむ「滞在型図書館」として再編され始めています。また、地域のシンボルであった小中学校を改築する際に、防災・減災やスポーツ活動の拠点としてだけでなく、コミュニティ活動の拠点や新たなまちづくり活動の拠り所として再定義するといった、建築単体だけでなく、地域全体の将来像を具現化する都市デザインを行い、良質な場所づくり(プレイス・メイキング)を行っていく必要があるのです。

何を目指しているのですか?

日本の公共建築、公共施設は、第2次世界大戦後の復興期とその後の高度経済成長期に多く建設されてきました。都市への人口流入が加速し、都市域が拡張していく際に、一定水準の生活環境を担保した居住地域を形成することの一翼を担いました。その際、建設する各種の公共施設をオーダー・メイドの「個別設計」では加速度的に膨れ上がる需要全体に応えることができないので、「標準設計」という、一種のモデル・プランを用意して全国各地にほぼ一律に普及させる方法がとられました。例えば、南面した教室が北側の廊下に沿って並ぶ学校建築の様子は、生まれ育った地域や時代を超えて、現在の日本人に共通する学校のイメージでしょう。 その公共建築ですが、今では量的には充足し高度経済成長期に建設されたものは竣工後50年を経過し、大規模な修繕もしくは建替の時期を迎えています。もし国や自治体の財政状況が良好で、サービス対象人口も一定数あれば、さらに高機能化を進める方向でそれぞれの公共建築を建て替えようと判断するのかもしれません。しかし、少子高齢化を伴って人口が減少する中で、社会や市民のニーズは50年前のそれとは大きく異なっており、それに合わせて必要とされる公共建築のプログラムや空間も異なってきています。 このような社会ニーズの変化に対応できないでいるのが、現在の多くの公共建築なのです。どのような公共建築を今後創って行くべきなのかの理論的検討は始まったばかりです。これまでの理論に基づく金太郎飴的な公共建築ではなく、その立地する地域や敷地の特性、住民・市民の今日的なニーズに応え、その方法を理論化、実践化することで、公共建築の新たな姿を世の中に提示することができることになるのです。

実践を通じた新たな理論と方法を創り出す

実践例:東川町立東川小学校・地域交流センター

今求められている公共建築は、今日的な市民や地域社会のニーズに地域特性を踏まえながらフィットさせるというきめ細やかな対応により計画、設計、建設され、それだけではなく、それぞれのニーズに沿った独自の運営がなされたものです。住民や市民にとって建物の完成はゴールではなく、新たな、そして本当の意味でのスタートであり、どのような運営が住民や市民のニーズに応えることになるのか、そしてそれをどのように運営して行くのかという議論と実践がさらに繰り返されることが重要なのです。 これらの知見を得るためには、研究室の中で文献を読んでいるだけでは何もなりません。実際のプロジェクトに参加し、その中で思考し、提案し、また考える。しかも、ここまではよく他の大学でも行っているのですが、単なる提案に留まらずそれを実践し、さらに完成後の運営までも含めて考えるというところまで参加します。それによって、これからの新しい公共建築の姿を描き出すことができるのです。 また、新たな知見を得る試みは、先進事例となりうるプロジェクトを調査、分析することも大事なことです。例えば、日本と非常に類似した社会状況にあるイタリアの公共施設を調査しています。「地区の家」と呼ばれる地区のコミュニティ施設では、徒歩圏の住民や市民を対象に、日々の生活に根ざしたメニューや運営が、地域の資源であった歴史的建造物をリノベーションして実現しています。また、図書館では、市内外から広く来館する市民が求める情報を様々な媒体や活動そのものを通じて提供する場所として、活き活きと使われています。これらの計画、運営に関わる関係者や研究者へのヒアリングと討論は、これからの公共建築を考える非常に重要な示唆を与えてくれます。 このように、市民や住民のための新しい拠点を建築とともに、周辺の都市環境までを含んだ場所づくり(プレイス・メイキング)を実践的に検討するのが、大学でしかできない建築計画建築設計都市デザインを融合した研究なのです。

地区の家サンサルバリオ(イタリア・トリノ市)